The shaking feeling

lucifel作

気づくと、彼は常に僕の傍にいた。
その深紅の瞳で…髪で己の心が騒がし、
前触れもなく唇を奪い、躰を重ねて。

それが当然なのだと、いつしか思うようになっていた。

何時も、突発的で…予測がつかないこの男に…
己の全てが…吸いこまれていく…。そんな気すら起こす。

過去…同じように愛した人の残像を消しきれずに…、
このまま、悟浄に甘えていても良いのだろうか…。

僕が花喃への罪悪感を募らせる雨の日。
不意に…古傷が痛み、その光景を目にする度、
悲しげに微笑み…己の名を呼ぶ禁忌の同居人。

悟浄の愛に答えたい…。素直にそう…確かに、
思っているのに…。自分の心はその意思とは裏腹に、
昏い影ばかりを落とす。

所詮、妖怪に生を変えても、心はヒトのまま。
己は元から弱かったのだろうか?
それは…違う…。そう自分に言い聞かせているのに、
何故か…それを拒む感情がそこにはあり。
己自身、何をどうしたいのか…。

まだ、答えを見出せないでいる。
そんな自分が果たして…彼の優しさに甘んじて…
良いのだろうか。申し訳なくて、悟浄だけ見る
勇気がなくて。自嘲にも似た笑みを口許に浮かべ、
3年前、彼が己に与えてくれた部屋を後にする。

―過去と現実を見つめる為に。

バタンっと玄関を出る事、数分。
雲行きが妖しくなり、雨が降り始める。

一歩弐歩、悟浄と過ごした家から離れ、
何故か目許からは涙が滴っていた。
ほろ苦い、痛みを胸に刻み込みながら。

全身が濡れた為だろうか。躰がだるく、
中々、思うように動かない。この足すらも。
気力を振り絞り躰を引き摺るように前進させ、
道なき道を辿り、ようやく雨宿りできそうな
樹を見つけると、安堵の溜息を漏らす。

―漸く…休めますね。

日中から夜間にかけて森の中を、彷徨っていた所為か
既に足の筋肉は硬直している。雨に打たれ体力が消耗した
事も、重なり睡魔が押し寄せ。そのまま、眠りへと
誘われ翌朝になるまで、眠り続けふと目を覚ます。

朧げな意識を覚醒させ、空を見上げるなりふと、隣人
が目に飛び込み、目を見開くと驚きの声を上げる。

「悟浄!それに…ジープまで…」

ここにいない筈の人が、そこにはいて。深紅の髪を
水滴で濡らし、安定した寝息をついており。余りの事に
すぐに言葉が、出てこない。

「あ?……もぉ、お目覚め?」

幼い子供みたいに瞼を擦りながら、起き上がり
ジープを肩に乗せ笑みを浮かべ己を見遣る。

―今、己は巧く笑えているだろうか…。

「悟浄、貴方…一体…何しに来たんです!か、帰ってください。僕はまだ、
戻る訳にはいきません。そもそも、どうやって呱々まで来たんですか!?」

「いや。…ここに来れたの、こいつのおかげ」

即答にも近い答えが帰ってくる。
要するにジープが僕の所まで、案内したということか…。
ペットに救われるとは、何とも不甲斐ない…。

―でも…。

まだ、見極めていないのに。
この胸に巡る気持ちの行方を。


果たして自分は、花喃と悟浄、
どちらを深く愛しているのか。

―まだ…分らない。

目を伏せ悟浄から顔を背けると、
ふっとから一筋だけ滴を頬に伝えさせた。

何故、彼はそこまで、己に…拘るのだろう…。

「躰だけの関係なのに…、平然と恋人気取り、ですか。」

「…一度、拾ったもんを早々、手放すわけにゃいかねぇの。
ましてや、それが惚れた相手とあっちゃな…」

惚れた…相手…。僕も…少なからず、悟浄に惹かれていた。
口調こそ軽いが、その目に移す意思は強い彼。幼少の頃に
受けた傷を、僻む事をしない…優しい男。

いつしか…。傷も薄れていった…。
何故、気づかなかったのだろう。
僕は…馬鹿だ…。

ああ、花喃…。
きっと…僕はまた君を裏切ってしまう。
悟浄を…彼を心底、欲しいと…
願ってしまった。

こんな僕を君は許してくれるだろうか。

例え、許されなくとも…
今一度、生きてみようと思う。

「…悟浄、僕は…貴方を…愛して…ます…。花喃が許してくれるか
どうかは、分りませんが…」

「わぁってるって。そんなん。ま、お前の姉ちゃんも、そう女々しく
想われちゃ気の毒っしょ。」

彼から発せられる意外な、言葉。
いわれてみれば、そうかもしれない。
己が過去に囚われる事で、彼女は
悲しみ怒るのでは…ないだろうか。
それこそ、大罪に近い事かもしれない。

都合の良い解釈かもしれないが、
これからは僕が彼の傍にいる。
疎まれるくらい…隣に。

それが…僕の生きる意味だと…思うから。

ジープの鳴き声が響く中、家路へと向い
再び歩き出す。

「希望」と言う名の光りを抱きながら。


管理人コーナー

はぅ。久し振りに悟浄と八戒の話を書いて見ました。どことなく、
意味不明な部分もあるような気が(くすん)文才がまだまだ、磨かれていません(爆死)
頑張って精進します!個人的にジープが大好きだったりします(笑)